観客動員数を増やし続けた(CXM)顧客体験価値設計
皆さんこんにちは。ライターの磯目です。
ついにこの記事を書ける日がやってきました。2021年プロ野球シーズンも残り20試合を切った今日このごろですが、我らベイスターズは安定の最下位に落ち込んでいます。
なんとか抜け出して悪くとも4位でシーズンを終われることを願うばかりです。
さてそんな横浜DeNAベイスターズですが、今季の取り組みもさることながら、ここ4、5年でもの凄い成長を遂げています。それはチームの実力の向上と同時に、球団全体におけるマーケティングの進化が行われているからです。リアルとデジタルの融合、それぞれでのCXM(顧客体験価値)最大化を提供して、新たなファンとリピーターを生み出し続けています。
今回はその一部分をCXの視点でまとめてみたいと思います。
ターゲットの明確化
DeNAが親会社になった2011年から様々な施策が打ち出されてきました。
プロモーションやイベント、試合の前や後、試合がない日でも自宅で楽しめるような施策など数多くです。
なぜそのような施策を打ち出し続けられたのか、まず始めに取り組んだのが、戦略ターゲットの明確化でした。
マーケティング的な視点であれば当たり前ですが、野球の世界では比較的珍しい考え方であり、且つ横浜DeNAベイスターズの取り組みは一層、新しいものでした。
広く見れば広島カープが2009年頃からブランディングの1つとして取り組み始めた「カープ女子」。これは当時新本拠地であったマツダスタジアムのオープンに合わせて、球団が女性ファンの取り組みを強化。その結果多くの女性ファンが球場に足を運ぶようになったのです。
そういった事例がある中で横浜DeNAベイスターズは、まず”来場顧客のデータ”に着目してターゲットの明確化を始めました。
本格的なデータ分析に着手したのは、1年分のデータが集まった2013年ごろです。入場者の性別や年代といった基本属性を見ると、30代男性が最も多く、20代男性、40代男性がそれに続き、女性は少ないことが分かった。また、観戦者数だけでなく増加率も見た結果、20~30代の男性を中心にするのが良さそうだということが分析の結果分かったと言います。
そういった定量的な分析に加え、定性的な分析も行っていました。プロ野球球団の運営としては非常に珍しい、グループインタビューを実施し、球場に来る理由やキッカケなどヒアリングしました。既に球場に来ているユーザー、すなわち球団の”ファン”の声を活かしたのです。
そして、導き出された1つのユーザー像が「20~30代を中心としたサラリーマン。球場での野球観戦は球場の雰囲気が好きで、勝敗だけにこだわるわけではない。お酒も楽しめる1つの娯楽としての一環である。またスマホとSNSを使いこなし自らの体験を発信することや流行を受け取ることに敏感」という人物像である。
上記は一つの例だが、ファンであるユーザーの球場での体験を細かく分析し、「このようなユーザー層には、こういったサービスが喜ばれる」といった次の施策に活かすことが出来たと言われています。
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マーケティング的な視点で見れば、いわゆるファンベース(ファンであるユーザーを大切にし、ファンをベースにして中長期的に売上や価値を上げていく考え方)的な視点で考え、その取り組みを広くユーザーへ、そしてスタジアム全体へ広めていきました。
CXMを活用ターゲットへの戦略的マネジメント
戦略的なマネジメントの結果によって2011年以降、観客動員数、ファンクラブ会員数は急速な右肩上がりの成長を得ることが出来ています。ついには2018年にはホーム全72試合中3試合を除く69試合で満員を達成し、その年の観客動員率は97.4%にまでなりました。
それは自分たちの顧客像を明確化し、ユーザーに適した施策やコミュニケーションの効果と言えるでしょう。
リアルの施策で言えば、球場内では来場者に合わせたイベント、球場の外はボールパーク化し、野球にそこまで興味が無い人でも楽しめる施設も設立されました。
横浜という街のイメージや特徴を活かしつつ花火や光の演出など、観客を楽しませる仕掛けが毎年随所に施されており、2019年はドローンを用いた演出を行うなど、一種のライブイベントのような他の球場では味わえない体験を提供していました。
デジタルでは、特にSNSへ特化しており、プロ野球12球団の中でも最も優れています。
活躍した選手のプレイをまとめた動画や、チーム・選手にフォーカスしたコンセプトムービーをYouTubeで公開するなど、当時では少なかったネット上での訴求を特化していました。
また、球団誕生当初からニコニコ生放送など、ネットでの試合中継を積極的に行っていました。
球場に来られない日にネットで観戦していただいたり、あるいは、球場に訪れたことのない人に、まずネットやテレビで観戦してもらい、ベイスターズや野球に親しみを持って欲しいという目的でした。
これは、神奈川を離れて遠方で暮らしているなどの理由で、横浜スタジアムを訪れることのできないベイスターズファンに、観戦の機会を持ってもらう狙いもあるでしょう。
ファンへの施策として、ECサイトで取り扱うグッズや、オフィシャルサイトの有料コンテンツでチームの裏側を公開するといったネットコンテンツの充実、そしてシーズン終了後には1年をまとめたドキュメンタリー映画の公開もされています。
他にはない様々なユーザーニーズに合わせた新しい施策を打ち出し、
ヒットさせ続けているのは、ユーザーを把握し適切なコミュニケーションを設計し続けているからこそだと思います。
リアルとデジタル、それぞれでのユーザーへの体験価値を設計し、ファンを楽しませ続けている横浜DeNAベイスターズのマーケティングに今後も注目です。