人材関連ビジネスにおける「VOC調査」の重要性

こんにちは。デジタルマーケティングカンパニー・オノフのmiyamotoです。
今回は人材派遣・人材紹介ビジネスを展開されている企業様に対して、顧客離脱防止・機会損失の低減に生かせる手法・事例をご紹介いたします。
人材関連ビジネスの現状※
2023年度の人材関連ビジネス主要3業界(人材派遣業、ホワイトカラー職種の人材紹介業、再就職支援業)の市場規模は、事業者売上高ベースで前年度比6.3%増の9兆7,156億円でした。内訳は、人材派遣業市場が9兆2,800億円(前年度比5.9%増)、ホワイトカラー職種の人材紹介業市場が4,110億円(同17.1%増)、再就職支援業市場が246億円(同0.4%増)となりました。
人材派遣業市場は、人手不足感の強まりに伴う企業からのサービス需要が高まっており、特にITエンジニアなどのIT関連職種や介護職等の領域で需要の高まりが顕著です。
ホワイトカラー職種の人材紹介業市場は、ITエンジニアや即戦力人材などの採用を目的としたサービス需要の高まりにより、市場は拡大を続けています。前年度に比べるとコロナ禍からの反動で高まっていた採用需要には一服感が見られましたが、市場規模を縮小させるほどの影響ではありません。
2024年度の市場規模は、事業者売上高ベースで前年度比5.6%増の10兆2,602億円の見込みで、堅調な成長が予想されています。
※矢野経済研究所調べ
これをお読みの皆様も、一度は人材紹介サービスに登録をしたり、実際にサービスを活用して転職活動をされたことがあるかと思います。採用する企業に非常に身近なサービスとして定着しています。
業界が抱える課題ついて
人材関連ビジネスは「ヒト」が商品のサービスです。派遣人材や紹介サービス利用者に対して、各企業は様々なケアを行い品質の維持、利用者の満足度向上に努めていますが、特に人材派遣業、人材紹介業においては、解消しきれていない課題が存在しています。
人材派遣業における課題
厚生労働省の調査では、労働者派遣契約を途中で終了したことがある派遣先は平均で14%も存在します。そして、その大きな要因が
「派遣労働者の勤務状況に問題があった(49.6%)」
「派遣労働者の技術・技能に問題があった(44.6%)」
と派遣労働者の品質に関する課題が中途解約の2大要因となっています。途中解約はクライアント離脱の要因だけではなく、将来の機会損失につながる事業上の大きなリスクとなります。
※厚生労働省調べ
人材紹介業における課題
「人材紹介」は顧客との伴走型サービスともいえます。採用要件の定義や求人情報の打ち出しから、選考フェーズごとのフォローアップ…など、担当営業は顧客企業と密に接しながら、信頼関係を構築していきます。そのため、顧客が求めることを理解し適切に対応すれば案件相談が増えます。逆に信頼関係を毀損させていくと依頼は減少、停止するなど、担当営業への信頼が売上に大きく影響することになります。顧客企業の信頼をいかに毀損させないか、が大きなカギになります。
課題の原因
前段に人材関連ビジネス業は「ヒト」が商品のサービスと記載しましたが、これらの課題の原因も同じく「ヒト」にあります。いずれも営業品質=営業担当者自身の品質に起因するものと考えられます。
人材派遣業
途中解約に至らざるを得ない状況を生み出しているのは、派遣人材自身の問題ではなく、スキルアンマッチ、つまりは顧客企業の要求に対して最適な人材を提案できていないことにあります。このことが顧客企業からの信頼が毀損していく要因となります。
人材紹介業
信頼関係の構築は担当営業と顧客企業とのコミュニケーションに寄るところが大きいですが、ともすればそのコミュニケーションはブラックボックスになりがちな傾向があるといえます。営業担当からの報告は、主観や保身も加味されリスクの事前把握・未然防止に寄与が難しいのが実態で、マネジャー含む第三者からは真の姿を把握しにくくあります。信頼関係の毀損の延長上にあるのが顧客のクレームですが、クレーム発生の時点で「事後報告」であり、既に手遅れになっていることもあります。最悪の場合には利用停止や解約につながります。
課題の解決:顧客企業の「声」を適切に聴く
その解決策としては、まず何よりも顧客企業の「声(意見・反応・ニーズ等)」を聴くことが挙げられます。これらの顧客の声をマーケティング用語で「VOC(Voice Of Customer)」と呼びます。VOCとは、顧客のニーズや意見、期待などを総称して指し、顧客が製品やサービスに対して抱く感想や要望、苦情、クレームなどの意見を収集・分析することで、企業は顧客のニーズを理解し、よりよい製品やサービスを提供するための基盤を築くことができます。
担当営業も「VOC」を集める役割を担う必要がありますが、上記した課題が起きている以上、十分に機能を果たしていない現状があります。加えて、顧客となまじ関係性を構築しているために相手が気を遣って本音を話さないケースが存在します。このような場合、顧客企業がサービスや営業担当者自身への改善を望んでいたとしても、クレームとして声に出さず、小さな不満をどんどんためていくことになります。そして、担当営業が気付かないうちに顧客の心が離れ、サービス解約やリプレイスにつながるのです。言うなれば、このような小さな不満の中にこそ営業活動における課題が隠れているのではないでしょうか。
「VOC」を聴くタイミングも重要になります。顧客企業がどのタイミングで意見を言いたくなるのか、を適切に考えなければ、本音を引き出すことは非常に難しくなります。その最適なタイミングの一つとして「サービスが提供された直後」が挙げられます。顧客がサービス提供前に抱く期待値と実際に提供された後に感じるギャップが大きければ大きいほど、その不満や本音を引き出しやすくなります。
これらを踏まえて「VOC」を適切に集めるためのポイントは
「配慮や忖度を受けない第三者がサービス提供直後に調査を実施する」
になります。人材関連ビジネスにおいて「VOC」は次のように活用でき、前掲の課題を解決するための有効な手段となります。
人材派遣業‐人材アンマッチの防止
本当に必要だったスキルと現状とのGAPや派遣労働者のリアルな勤務態度、周囲とのハレーションの状況などをクレームになる前に先行して把握し、対策を実施することで途中解約のリスクを未然に防ぐ
人材紹介業‐顧客企業とのより深い関係性の構築
ブラックボックス化している顧客と営業担当者のやり取りの中に隠されているリアルな評価やクレーム未満の不満などを可視化&共有、リスクの芽を未然に摘むことで、信頼関係の発展が可能
事例とその成果
「VOC」の具体的な収集方法の一つとして、当社では、定期的な「顧客満足度調査」を提案させていただいおります。当社のような専門的なマーケティングリサーチ企業が、お客様の目指す姿や現況・課題を理解した上で最適な調査項目・調査計画を策定することで、お客様の本音を引き出すことが可能になります。
某企業様の顧客満足度調査をご支援した事例をご紹介いたします。
本件は、営業担当者の対応品質のお客様評価を確認し、フォローアップや指導を行うために実施をされたものです。本件でのポイントは、前掲しました「配慮や忖度を受けない第三者がサービス提供直後に実施する」を実践したことになります。
<実施内容>
・アンケート方法
答えやすさや運用のしやすさを重視し「オンラインアンケート」を推奨
・アンケート対象者、配信/回収方法
前月に費用請求したお客様に対して、営業事務担当者(=第三者)が、メールにアンケートURLを添付し、一斉配信
・アンケート配信 タイミング/時間
週の前半かつビジネスアワーの早い時間帯を推奨
<結果>
本件の成果は、高い回収率の上に、一定数ですが営業担当者への不満を獲得できたことにあります。
・アンケート回収率 69%
・営業担当者への不満コメント回収率 10%
・企業全体やサービスに関する評価コメント回収率 20%
不満コメントは担当営業および所属上長に共有し、対応の是正やお客様へのフォローアップに活用することができました。
これらの不満はいずれも担当営業から報告や上長同席の面談では表面化されなかったもので、まさにコミュニケーションのブラックボックス化を防ぎ、クレームや解約のリスクを事前に排除できた好例になります。
最後に
今回は人材関連ビジネス業界の視点から「VOC」の重要性を説明いたしましたが、当然「VOC」は業界・業種・職種問わず重要なマーケティング情報です。サービス品質や企業品質の改善に、当社のマーケティングリサーチがご支援をさせていただきます。